2021/07/25に開催されました「第75回全日本アマチュア将棋名人戦沖縄県大会」の決勝に進出した禰保拓也七段から自戦記を寄稿いただきましたので掲載いたします。禰保さん、ご協力ありがとうございました。
いつメン&先輩と顔合わせ気持ち上向く
7月25日に開催されたアマチュア将棋名人戦の沖縄予選。今年初旬の支部名人戦以来、久々の大会参加になりましたが運良く代表を勝ち取ることができました。本稿では大会当時の心境や決勝の内容を振り返ってみたいと思います。
今年もコロナの影響で県内での大会や将棋イベントは中止が相次ぎ、今年も「もう参加できる大会はないかな」と思いながら過ごしていたある日、「アマ名人戦の予選があるので参加しませんか?」とメールが。日程的にもちょうど仕事も忙しくなさそうだったのですぐさま参加予約。そのやり取りの前までは正直に言って、将棋に対するモチベーションがやや下降気味で、仕事が休みの日も将棋以外の遊びで時間を埋めることも多かったのですが、久しぶりに「また頑張ってみようか」という気持ちが沸き、参加予約したその日から少しずつ勉強に取り組んでいました。
大会はコロナ禍のため代表戦クラスのみの開催となり大会当日はいつもと比べて参加者が少なかったのですが、それでもいつメン(いつも大会でよく見るメンバー)や久しぶりに会う先輩の顔をみることができ、僕も「久しぶりに今日一日将棋を楽しもう!」という気持ちが沸き出てきて良い精神状態で試合に臨むことができました。
その「楽しむ気持ち」で臨めたのが良かったのか試合の予選から決勝までは自分らしい内容の将棋が指せ、迎えた決勝はこれまで幾度となく顔を合わせた桑江裕丈七段。僕とは棋風が正反対で、いわゆる「堅守速攻」型の将棋のイメージ。形勢が悪くなっても簡単に土俵を割らない粘り強さも持っていて、対局するときはいつも苦戦させられています。僕が持っていない良い部分もたくさん持っていて、指していてとても勉強になる相手です。
これまでの対戦では桑江七段の振り飛車に対して僕も追従して飛車を振る「相振り飛車」の作戦も多く、対局直前まで選択を迷っていましたが、結局僕は「居飛車」で戦うことを決め、本譜は三間飛車対居飛車の「対抗型」と呼ばれる戦型になり、桑江さんは得意の「穴熊」、それに対し僕は「銀冠」で対抗しました(第1図)。対局中はお互いに力が出そうな戦型になったかなと感じていましたが次譜以降、本格的な戦いが始まります。
「穴熊先攻、銀冠追い込み」の展開も気になる手が
本譜のような「振り飛車穴熊対居飛車銀冠」の戦型は僕の経験上、振り飛車側が主導権を握って序盤に先攻し、居飛車側が厚みを生かして中・終盤で追い込むという展開になりやすい認識を持っています。穴熊が美濃囲いに比べて平べったく進展性に乏しい特徴があるので囲い終わったら攻めの理想形を求めて駒組みしてくることになるのですが、本譜でいうと桑江さんの▲6五歩がその第一歩。次に無条件で▲6六銀と上がられるといつでも▲6八飛~▲5五歩のような攻めを見せられ居飛車が作戦負けになってしまいます。そこで▲6五歩に対して僕も△4五歩とけん制しました。
以下、先手の駒が上ずって薄くなったように見えますが半面、▲4六金~▲4八飛と4筋に先手の駒が集中し、いつでも総攻撃を仕掛ける体制ができました。対して僕も先手の角道を避けて△1二玉と寄り、△2五歩と突き、△2六歩~△2七歩を見せることでいつでも穴熊の囲いを薄くすることができる作戦をとりました。この辺りの先手・後手の指し手から、先ほど述べた「穴熊先攻、銀冠追い込み」の展開のニュアンスが少しでも伝わるでしょうか。
対局中はこの辺り、過去に似た形を指した事がないか、記憶を辿って局面を比較しながら指し手を選んでいました。以下、桑江さんは5筋も突き捨て、角銀も使って集中攻撃を取ろうとした局面が第2図。ここは先手に取って重大な岐路。すぐに攻めるか、一旦溜めてから攻めるか。僕は「ある手」が気になっていたのですが…。
穴熊崩しの急所の一手
第2図では先手にとって色々攻める手段がありそうです。但し、▲5五銀では△5四歩▲4四歩△4二金引となりそこで銀を撤退するのでは失敗。
ここでは▲4五歩と一旦溜めて次に▲5五銀を狙われる手を気にしていました。▲4五歩と指された後の後手の手が難しい。5筋は先手と比べて数が足りないので△5四銀は▲5五銀と出られてお手伝いになりそう。△5六歩と伸ばすか(手筋)、△2四角(銀が入った時の△5七銀を狙う)などが正解かも知れませんが、いずれも難しい。
本譜は▲4四歩。先に1歩捨てておく事で▲5五銀の進出をスムーズにする手筋です。この辺り桑江さんとしては一気の後手陣攻略を狙う心理状態だったのかも知れません。本譜は以下、△4四同銀▲5五銀に△2六歩が前々から狙っていた穴熊崩しの急所の一手。ここは手抜けないので▲同歩の一手ですが、そこで△4五歩と強気に渡り合っていきます。大捌きになればいつでも△2七歩で守りが崩れる穴熊より銀冠の方が堅いというのが主張の作戦です。
本譜は以下、▲4四銀△同金と進みましたが、本来ここは▲4五金とするのが自然。ですが△同金▲同飛△7七角成▲同桂△4四歩(取ると△2七歩~△5五角の王手飛車の筋)があり、攻めがうまく続かない。▲4五金に換えて本譜、桑江さんは▲4四角と強行策に出ましたが、これが短兵急の敗着でした。ここは▲4五金で自信がなければ▲5六金と自重しておき、2七の地点を補強した後に、機を見て▲4五金を決行するべきでした。本譜▲4四角と切った後に△6六角と絶好の場所に出られ、以下▲2五銀(▲3八金打などで粘られる方が嫌だった)に△2七歩~△4七歩が突き刺さりました(第3図)。
△4七歩を取れない先手は▲3八飛とかわしましたが、△3九角成~△4八歩成と「と金」が先手で作れる形になり後手の一手勝ちが決まりました。この後は詰む・詰まないの局面で私が少し震えましたが何とか押し切ることができました。(汗)(投了図)
大会を振り返って
今大会を振り返ってみて、「対面で指す真剣勝負」としての将棋の楽しさを改めて感じました。先にも述べましたが、今は世間全体がコロナ禍の影響で不要な外出やイベント規制がかかってしまい、なかなか対面で将棋を指すきっかけすら作るのが難しい状況かと感じます。その中でもオンラインを利用した将棋イベントが、この1~2年の間で流行して各種大会が開催されていて、オンライン対局もそれはそれでよいと思いますが、個人的な意見(わがまま)を言わせていただくと、やっぱり将棋は、対面で相手の表情や息遣いを感じながら指す方が楽しいし面白いなと感じます。今回の「対面での」将棋大会を開催するにあたって、関係者の方々の熱意と地道な努力に本当に感謝しています。これからまた「コロナ前」のように将棋を楽しむための貴重な一歩として成功したのではないかと思える今大会でした。
最後になりますが、ここまで長文・拙文にお付き合い頂きありがとうございました。
(禰保拓也)