2023年7月2日に開催した大山康晴十五世名人生誕100周年記念第77回全日本アマチュア将棋名人戦沖縄県大会の代表選抜準決勝の棋譜について島本亮五段に解説を寄稿いただきましたので掲載いたします。
島本先生には執筆のご協力に感謝申し上げます。
大山康晴十五世名人生誕100周年記念第77回全日本アマチュア将棋名人戦沖縄県大会代表選抜準決勝
持ち時間 各5分切れたら一手30秒
▲五段 喜久川聖弥
△三段 畑中さゆり
初手からの指し手
▲7六歩△3四歩▲7五歩△4二飛▲6八飛△6二玉
▲5八金左△8二銀▲7八飛△5二金左▲4八玉△3五歩
▲2八銀△3二飛▲7六飛△3四飛▲3八玉△7二玉
▲1六歩△1四歩▲9六歩△9四歩▲4八金上△6二金上
▲7七桂△2四歩▲2六歩△5五角(第1図)(手数28手)
この相振りを指さないので解らず、棋譜検索を掛けてみましたら△4二飛▲6八飛の局面が0局。△4二飛▲7八飛は多々指されていますが、今年に限っては0局ですね。
指さないのでと言いながら▲7八飛の局面で△8八角成を入れた方が得だと聞いた気がするのですが、違いましたかね?
①▲8八同飛は△2四歩以下の相向かい飛車が濃厚ですが、後手は手損なく組めるとかいう話で、②▲8八同銀は、後の銀の使い道が難しい。
とかいう話があったように思うのですが…。
先後同型の相三間に落ち着いた本譜。
▲7七桂と先に態度を示しましたが、少し損な印象があります。
後手はその型を見て組んでいけるので、良い待ち方ができそうな。
ただ、持ち時間5分30秒の世界の話ではないですよね。(それを見越した手?)
第1図の△5五角。これの狙いが見えないのですが、牽制したのかな?
とはいえ▲2七銀と上がれるので、単に△4四角でも良かったと思うのです。
他△3二銀もあって▲2七銀なら△8四歩~8三銀として~3二飛~3四銀と後手だけ玉頭戦へと持ち込むようなことも。これが▲7七桂の損な印象の一例。
第1図からの指し手
▲4六歩△3六歩▲4七金左△3七歩成▲同 銀△2五歩
▲同 歩△3三桂▲3六歩△2五桂▲2八銀△2六歩
▲2七歩△4四角▲2六歩△同 角▲2七銀△3七歩
▲2八玉△4四角▲2六歩△2四飛▲2五歩△同 飛
▲3七桂△2四飛▲4五歩△2六歩▲3八銀△3三角
▲3五歩(第2図)(59手)
▲4六歩は「誘いの隙」ですかね。
△2五歩は1分30秒程の長考で、ここで畑中さんは秒読みに。
喜久川さんはまだ2分程を残していますね。
パっと見は後手の攻めが軽く見えます。
△2五桂に▲2八銀では▲2六銀と上がるのも有力で△2四飛では▲3五歩~3六金で完封されそうなので、△1五歩から暴れまくる展開になります。
△4四角では△2七同歩成▲同銀△1五歩▲2六歩(一例)△1六歩▲2五歩△8四飛▲7八銀△1七歩成▲同香△同香成▲同桂△2六歩となれば、損はせずに済みそうですし、桂を入手すると△6四桂で飛車交換が確実になるので、先手陣の方が辛そうな気がします。
▲2七銀に△3七歩は疑問手で△4八角成は有力でした。
以下①▲同金△2六歩▲1八銀(▲同銀は△3六飛▲3七歩△2六飛▲2七歩△3七桂成▲同金△2四飛は後手良し)に△8九金▲9七角△9九金や△6四飛▲7八銀△1五歩など後手の攻めが続きそうな展開です。
②▲同玉は△2八歩(△6四飛を利かすべきか)など、こちらも有望でした。
▲2五歩と桂を取った手では▲3五歩もあって▲3六金と出れば相当に厚い。
桂損となった後手は△2六歩のくさびを入れたのが精一杯というところ。
他に争点がないので垂れ歩が脅威とはならず、第2図は先手優勢です。
第2図以下の指し手
△6四飛▲7八銀△4二銀▲2六飛△2四飛▲2五歩
△6四飛▲3四桂△2三歩▲4二桂成△同金▲5八金
△6五桂▲6六歩△7七桂成▲同角△2四歩▲同 歩
△同 飛▲2五歩△8四飛▲7六桂△5四飛▲6五銀
(第3図)
▲3四桂に△2三歩など後手の頑張りが続きますが、先手の乱れない指し回しに糸口が見いだせず。
優劣がハッキリしてしまうと、30秒将棋では優勢な側は丁寧に指しだすので逆転しにくい気がします。
本譜は抑え込みと飛車の捕獲といった、方針の取りやすい状態に。
そこを貫けるのが、高段者の強さといったところかもしれませんね。
第3図以下の指し手
△5二金左▲5四銀△同歩▲2四歩△4二角▲2三歩成
△5三角▲3二飛△7五角▲3三と△3一歩▲2二飛成
△7一銀▲1一竜△8五銀▲6七銀△5五桂▲4八金引
△6七桂成▲同金△2五歩▲同飛△7八銀▲5九桂
△6七銀成▲同桂△5三角▲6五銀△7六銀▲同銀△3六桂(第4図)(手数114手)
畑中さんの不屈の精神に、徐々に乱れつつある喜久川さん。
▲3二飛で▲3三と でしたら早かったでしょう。
本譜は妙に△3一歩が堅く、よく利いています。
この辺りの畑中さんの指し方は、とても上手ですね。
▲4八金引では▲4四歩や▲8六歩などで良かったですし、▲5九桂も▲5八金で良かったですが、いろいろと食いつかれて冷静さを欠いていたように見受けられます。
開き直ることができると吹っ切れるのですが、なかなか難しいですよね。
第4図以下の指し手
▲3九玉△2八金▲4九玉△4八桂成▲同 玉△3八金
▲同 玉△3六銀▲4八銀△2五銀▲同 桂△3五角
▲7五桂△8二銀▲3一竜△5三角▲8四桂△同 歩
▲7一金(投了図)まで133手で喜久川さんの勝ち
▲4八銀は危険で▲2二飛成△4七金▲4九玉△3七銀成▲5九玉と逃げ出せば紛れは無かったと思います。
△3五角が逸機で△7九飛なら、角取りと△1九飛成が見えていて、後手陣は5三角が上下左右によく利いていて、一波乱あってもおかしくない展開でした。
実際、△2五銀と飛車を取った時点で、ソフトの形勢が後手有利に振れています。(そこまでは先手勝勢)
▲7五桂にも△7四歩ならといったところでしたが、△8二銀としたため▲3一竜が入ってしまい再逆転。最後は喜久川さんが華麗な寄せを決めました。
(島本亮)